「深低重心」「2-BALL」の発想はここから!“元祖”異形ヘッド 一周回って考える進化の方向性
長年、雑誌企画を作るための資料として所有してきた古いクラブ類を整理していきながら、処分品を題材にコラムを書いていこうと始めた本連載。ドライバーの進化をテーマにした回が続いたので、閑話休題。第5回は、クラブの進化とルールによる規制について書いてみたい。
いつか雑誌の企画で使うだろう――この一念で、クラブ進化のターニングポイントとなった関連アイテムを集めてきた。今回、倉庫から引っ張り出してきたのはご覧のドライバーとパターである。
ガイコツのようなヘッドが「ベスター ドライバー」で、北九州にあったコーシン社が開発したモデル。3つの樹脂製ボールが並んだデザインが「ペルツ パター」。どちらも一見すると玩具のようにも見えるかもしれない。しかし、いずれも80~90年代初頭、メーカーが本気で開発に取り組んだ、ゴルフクラブ史に残したい“傑作”だ。
ミスに対するやさしさを追求したエンジニアたち
クラブの世界ではしばしば“異形ヘッド”と呼ばれるモデルが登場する。2000年代初頭には四角形や三角形のドライバーヘッドが登場し、「高慣性モーメント」という言葉が一気に市民権を得た。ナイキゴルフは『5000』や『5900』といった、左右の慣性モーメント値をそのままモデル名にしたドライバーを発売。テーラーメイドも『トライアンギュラー』と名付けた三角形のヘッドデザインで、ミスに打点ズレにやさしい異形ヘッドのトレンドを牽引した。
だが、そのはるか以前、1990年代初頭にはすでに、国内メーカーのコーシンが“ガイコツ型ヘッド”の「ベスター ドライバー」を世に送り出していたのである。
なぜこのような“ガイコツヘッド”が生まれたのか。その理由は、ずばり深低重心設計を極めた結果。現在のドライバーヘッドは、設計上重量が必要ではないクラウンやソールのサイド部にカーボンパーツを使っている。不要な部分の重さを自由に使えるフリーウエートとして持ちつつ、重さが必要なソールやヘッド後部に再配分(集中)することで、低くて深い重心設計が可能に。つまり、ボールを適正なスピン量で高く打ち出す条件を整えたのである。
その基本設計を念頭において、いま一度「ベスター」を見ていただきたい。ソールとヘッド後部に重量を集中させた設計が、今のドライバーと同じコンセプトであることが分かるだろう。潔いのは、現代クラブのようにカーボンで見た目を一般的に仕立てることなく、ボールを適正弾道で遠くに飛ばすには「フレーム構造だけで十分」というエンジニアの気骨が感じられるところ。実際、この「ベスター」は当時のドラコン選手権で優勝したプロも使用していたほどで、性能面でも高い評価を得ていた。
とはいえ、パーシモンがまだ現役だった時代にこのデザインは早すぎた。ドラコン大会で注目を集めたことで協会の目に留まり、ルール不適合とされてしまうのだ。
一方の「ペルツ パター」は、オデッセイ「2-BALL」のネタ元としても知られる存在。以前、元キャロウェイの開発責任者リチャード・C・ヘルムステッター氏に聞いた話が印象に残っている。
「円というのはひとつだけでは方向を示すアライメントにはなりません。でしょ? でも複数並べると…、素晴らしいアライメントとなるんです。円はライン(線)と違って、見る方向で傾きが変わらないんですよ。つまり、パッティングのスタイルを選ばないんです。だから、世界中のゴルファーから2-BALLのディスクアライメントは支持されたのです」(ヘルムステッター氏)
規制と創意のせめぎ合いが築いたクラブ開発史
「ペルツ パター」は当初、極端にフェース面積の狭いモデルで登場したが、フェースよりバックフェースのほうが幅広い形状が伝統的でないという理由で、ルール不適合に。それならばと、フェースとバックフェースの幅を入れ替えた改修モデルで発売するも、結局はボールのような構造物自体が伝統的ではないということで違反となってしまった(改修モデルは10年の猶予期間を設定)。
2000年に入るとキャロウェイ(オデッセイ)が、考案者のデーブ・ペルツ氏から“BALLアライメント”の権利を取得。形状ではなく模様(デザイン)として商品化し、ルールに抵触することなく大ヒットさせるに至った。
ゴルフのルールブックには、「クラブは伝統と慣習に大幅に反する形状と構造のものであってはならない」とあり、構造はシンプルであることが求められる。「ベスター ドライバー」は伝統と慣習に大幅に反する形状と判断され、「ペルツ パター」も外観と複雑な構造によって違反クラブと判断されてしまった。
道具の進化をルールによって規制することは、長いゴルフの歴史では珍しいことではない。たまたま極端にカップイン率が高いパターが生み出されれば、そのパターは違反となり、ルール改正で以降、似た形状のパターが作れなくなる(1900年代初め/スケネクタディパター)。近年でもピンの「Doc パター」の登場でヘッド幅の規定が設けられ、幅より奥行きのあるモデルはルール違反に。その後、アンカリングスタイルも自立するパターも違反となった。パターだけでなく高反発フェースや高慣性モーメント化、ヘッド体積やクラブの長ささえも段階的に数値的な上限が決められ、ルール改正に盛り込まれてきた。
私がこの「ベスター ドライバー」と「ペルツ パター」を手放さずにいたのは、設計のコンセプトが最新のクラブデザインに通じているから。手法は違えど、狙いは同じ。ゴルフクラブの場合は“新発想”よりも“技術の進化”で生まれることが多いのだ。
今回、改めて両クラブでボールを打ってみた。正直に言えば、ルールで禁止するほどの驚くべき性能差があるとは感じなかった。見た目に関しても、今のゴルファーは異形ヘッドにかなり耐性があるように思える。「ベスター」「ペルツ」がこれから登場するモデルだったならば、適合とされていたかもしれない。(高梨祥明)

高梨祥明(たかなし・よしあき) プロフィール
20有余年ゴルフ雑誌のギア担当として、国内外問わずギア取材を精力的に行い、2013年に独立。独自の視点で探求するギアに対する見解は、多くのゴルファーを魅了する。現在は執筆活動のほかマイブランド「CLUBER BASE(クラバーベース)」を立ち上げ、関連グッズの企画や販売も行う。