えっ!? 竹田麗央と同じボールが合う?ボールフィッティング最前線/大人の社会科見学 「ダンロップボール工場」後編
丹波市市島町(兵庫県)のダンロップボール工場を見学し、「スリクソンZ-STARシリーズ」がどのように作られているかを前回詳しくお届けした。今回はでき上がりのボールを打ち比べ、どれが自分に合っているのかを試す「ボールフィッティング」の模様をお届けしたい。「ドライバーが飛ぶだろうから」という勝手なイメージでこれまで「XV」を選んでいた筆者だったが、フィッティングは意外な結果に…。(取材・構成/服部謙二郎)
フィッティングはグリーン上からスタート
午前中に工場を取材し、頭の中にボールの知識をたっぷりインプットした後で、午後はテストセンターへ移動した。Z-STAR(以下スター)、Z-STAR XV(以下XV)、Z-STARダイヤモンド(以下ダイヤ)3機種を打ち比べ、どのボールが自分に合っているのかテストするというのだ。
クラブのフィッティングは受けたこともあるが、ボールフィッティングは初めて。一連の製造工程を見てきた後だから、「できたてホヤホヤのボールが打てる!」、そんな気分でワクワクしてきた(もちろん、実際にはできたてではないが…)。
市島工場のテストセンターは400yd近くあり、双方向から打つことができる。左右幅も広く、気持ちよくクラブが振れる。もちろん芝から打つことができ、テストをするには絶好のロケーションだ。
ゴルフシューズを履いて意気込んでグローブをはめていると、「まずはパターからいきますよ」と、前回も登場したダンロップのボールマイスター・神野一也さんから待ったがかかった。なぜパターから?ん、待てよ。そういえば、松山英樹は必ずパターからテストするというのを聞いたことがある。そうか。今日は“松山クラス”の好待遇を受けているということか!?
まんざらでもない顔をしていると、「パターからテストすると決めているんです」(神野さん)と一言。なんてことはない、決まりごとのようだ。「クラブには固有振動数というものがあって、ドライバーやアイアンよりパターのほうがその数値が大きい。振動数が大きいクラブのほうがボールの差が分かりやすいんです」
確かにドライバーでボールの打感の差を言い当てるのは難しく、パターならその差を実感できそうな気もする。「パターのほうが打点も安定するので、それも差の分かりやすさの一つです」と神野さんはつけ加えた。
一連の説明を終えて手渡されたのは、赤いスタンプの「XV」だった。パターはクリーブランドのインサートが入ってないモデル。打つ順番にルールはなく、「同じボールを3球連続で打ってもいいですし、XV→ダイヤ→スターと順番に打ってもいいです」という。同じボールを3球ずつ打ち、その違いを確かめることにした。
パターは「XV」の打感が良かった
XVは少し硬さのある打感。その後、ダイヤ、スターとなるにつれ、打感が柔らかくなっていく。「インサートのないパターで打つと音は大きくなると思います。音の大きい、小さいの好みはありますか」と神野さんから質問を受けた。普段、ノンインサートの削り出しパターを使っている私は、どちらかというと硬くて音がする打感が好み。3機種のうち、好みは「XV」だった。
「もちろんこの時点で一つに決めるわけでなく、ヒアリングしてソート(分類)していきます。まずはパターでボールの差を体感していただくことが重要なんです」
歴代「XV」を使っている松山英樹の好みを聞くと、「やはり高くて澄んだ音がいいとおっしゃいますね。でも全員がそうではなく、音がしないほうがいいというプロもいる」とのこと。ボールにこだわりがないアマチュアでも、パターならば「コレがいい」というのが決まりやすいそうだ。確かにこうして打ち比べると、硬さの違いははっきりと感じとることができた。
アプローチでは「スター」に
芝生のフィールドに場所を移す。ロフト58度のウェッジ、20yd設定で球を打った。「コースでいちばんシチュエーションが多い距離とみています。短いショットでどれだけ球が低く出るかをチェックします」
球は低いほうがいいということだろうか。「球が低いほどスピンは入ります。その後、ファーストバウンドで前に行かずにちゃんと上に上がるかを見るプロもいます」
パターと同じようにXV→ダイヤ→スターの順に打つ。アマチュアの自分でも分かるのは、3機種のうちスターが明らかに柔らかいということ。アプローチに関して言えば、スターがいちばん感触が良く、パターとは真逆の結果になった。「柔らかいとスピンが入るイメージは出ますよね。フェースに乗っている感じもします」と神野さん。
「これ打ってみます?」と言って、神野さんはおもむろに違うボールを渡してきた。ボールには「XXIO」の文字。「めちゃめちゃ柔らかく感じると思いますよ。真ん中のゴムが柔らかいので、ボール全体も柔らかくなります」
ではスピンが入るのか?と聞くと、そうではないらしい。「スピンはやっぱりZ-STARのようなウレタンボールのほうが入ります。スピン量が少ないほうが打ち出しは高く上がりやすいので、高さで止めたい方はゼクシオの選択肢もアリだと思います」。なるほど。球を低く出すという技術が伴わない自分などは、ゼクシオも選択肢に入れていいということか。
アイアンは「スター」か「ダイヤ」に
次に手にしたのは、「スリクソン ZXi7」の7番アイアン。これまたXV→ダイヤ→スターの順に打っていく。「この辺の番手になってくると打感の差を感じにくくなるはずです」と神野さんが言うように、アプローチほどの差を感じられなかった。スターになるにつれ、「若干柔らかくなっているかな」ぐらいの差だ。
ただし、トラックマンの数値を見比べるとその差は歴然。XVが5100回転なのに対し、ダイヤとスターは6000回転台の前半。「スターやダイヤなどは少しホップしてソフトランディングする球。ポテンシャルとしては、グリーンで止まりやすくなります。スピン量が少ないXVは飛びますが、アイアンを飛ばしたいのか、止めたいのかで判断は分かれますよね」。そりゃあ、止めたいです。となると、アイアンはダイヤかスターを選ぶと良いということか。
ドライバーはまさかの「スター」に
そしてオオトリであるドライバー。渡されたのは「スリクソン ZXi MAX」ドライバー。「普段スピン量どれぐらいですか?」と聞かれ、正直に3000回転以上いってしまうケースが多いと答えた。風は左からのややアゲンスト。スライサーには嫌なシチュエーションだ。
XVを渡されて、ティアップ。一発目は明らかにスピン量の多い球が出て、数字を見ても3200回転オーバー。「ヘッドがマックスなのでスピン量も入りやすいと思います」という神野さんのフォローもあったが、それでもスピン量は多め。続けて打ったダイヤもスピン量は多く、3000回転を切らない。そして最後にスターを打つと、スピン量はグンと下がって平均2600回転に。
なるほど。硬いXVのほうがスピン量が少なくなると思っていたが、まったく逆の結果になった。「ボール全体が硬いXVはスピン量が多くなります。一方で柔らかいスターはスピン量が減るんですよ」と神野さん。
「ボールで何ができるかといえば、それはスピン量の絶対値をコントロールすること。スピン量を多くするか、少なくするかを決められる。ショットの中でボールでいちばん貢献できるのは、やはりドライバーだと思います。ボールで300回転近くガッと減らせると、飛距離にして3、4ydは変わってきますし、OBも絶対減ります。直進性が高くなるのでケガも少なくなるはずです」
最終的に「スター」に決定
一連のボールフィッティングを終え、その結果をまとめてみた。
パッティング→XV
アプローチ→スター
アイアン→スター orダイヤ
ドライバー→スター
上記結果を踏まえ、「パターさえ我慢できれば、パフォーマンスがいいのはスターですね」と神野さんから結論付けられた。ドライバーは明らかに飛距離が伸び、アイアンではスピンが入ってグリーンで止まりやすい。これならスターを使わない手はないか。パターは慣れていけばいいのだから。
神野さんからも、「モニターのトップアマの方たちも同じ考えの人は多いです。やはりショットが重要なので、ショットが合うボールを優先し、パターが合わなかったらヘッドのインサートを変えています。その考え方もアリだと思います」とアドバイスを受けた。
なるほど、納得。自分に合うのはずっとXVだと思っていたが、まさかのスターという結果に…。となると竹田麗央と同じボールか。あんなに飛ばせないけど、それでもXVより飛ぶなら使わない手はないか。
うーん、やっぱり打ち比べないと分からなかったなぁ。ダンロップさん、こんなボールの打ち比べの機会、アマチュアにももっと増やしてください!