「GTシリーズ躍進の背景は?」Titleistのクラブ開発心臓部“LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学 in USA #1

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
業界NO.1ゴルフメーカーの現在地を切り取ってきた

タイトリストの勢いが止まらない―。PGAツアーにおけるドライバー使用率は6年連続トップ。国内男子ツアーでも新「GTシリーズ」は4週連続使用率No.1。また女子ツアーでも、渋野日向子西郷真央らが使用するなどその勢力図を塗り変えている。国内マーケットでは新GTは昨年8月末の発売直後から売り上げを拡大。「ボール>クラブ」のイメージが強い彼らの戦略にどんな変化があったのか?その背景を探るべく、行ってきましたUSA(ただ行きたいだけだろ!という声はさておき)。クラブ開発の総本山、カリフォルニアへ向けて太平洋をひとっ飛び。世界No.1ゴルフメーカーのモノづくりのアイデンティティを総力取材(全6回)。

「東と西」どっちが本社?

ご存じない方も多いと思うので、まずは「タイトリスト(Titleist)」という会社についての勉強からスタートしたい(タイトマニアでもう“耳タコ状態”の方はこの段落飛ばしてください)。

広告の後にも続きます
広告の後にも続きます

タイトリストが生まれたのは今から90年前のこと。第二次世界大戦前の1935年、アメリカ北東部のマサチューセッツ州のフェアヘブンという町で、初代ゴルフボールは産声をあげた。マサチューセッツは元々軍需産業の工場が多く軒を連ねる土地柄。バスケットボールや野球のボールも製造が始まったのは同地域。ゴム主体のゴルフボールがそこに居を構えるのも自然な流れだった。キャロウェイのゴルフボールもハドソン川沿いのチコピーという町に工場を構えている(元々スポルディングの工場)。

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
X線で通されたボールのシルエット。均一性を疑問視するところからボールの開発がスタートした。右ボール写真はイメージ(画像はタイトリストHPより)

「タイトリスト」の名はタイトルホルダーが語源。その意を汲むようにして1949年に全米オープンで初の使用率No.1ゴルフボールとなったのを皮切りに、ボールメーカーとしての地位をアメリカ国内で確立していった。その後のPGAツアーでの躍進は周知の事実。過去30年以上にわたって70%を超えるシェアを誇り、そのトップブランドである「プロV1ファミリー」は圧倒的な影響力を持つ。

ボールメーカーとして認知されていたタイトリスト社が、総合メーカーとして動き始めたのは1940年代から。ゴルフボールを使うプレーヤーのスコアメークに貢献するゴルフクラブを提供すべく、本格的なクラブ開発を始めていった。

広告の後にも続きます
広告の後にも続きます

タイトリスト社内では、“本社”と言えばゴルフボールの研究開発を行う東側(フェアヘブン)を指し、GTシリーズなどクラブの研究開発を行う西海岸は支社にあたる。「ボールは東、クラブは西」という棲み分けがあり、「西に相談したらなんて言うかな?」とか「東に意見を聞いてみよう」といった類の会話のやり取りが社内の共通用語としてある。東と西の連携は密で、ボール開発やクラブ開発においてお互いの意見交換が頻繁に交わされている。世界のツアーで7割のシェアを誇るボール部隊が同じ社内にいるという事実は、クラブ開発の面で見れば他社に比べて大きなアドバンテージとなっているのは間違いないだろう。

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
ボール開発のあるフェアヘブンが本社。クラブは西側のローカーで作られる

LOKERは朝の8時から活気に溢れていた

さて、ようやくここから本題に入ろう。今回の旅の目的地は、その西海岸。LAX(ロサンゼルス空港)から南に車を走らせること約2時間、カールスバッドの街中にあるクラブ研究開発の心臓部である「LOKER」(以下ローカー)を訪れた。「ローカー」の呼び名は通りの名前「LOKER STREET」に由来する。

ローカーには、R&D(Research & Development)と呼ばれるクラブ研究開発部隊があり、ドライバーでいえば近年の「TS」「TSi」「TSR」などを製作してきた。R&Dにはメタル部門(ドライバー、フェアウェイ、ユーティリティ)以外にも、「T100」「T150」「T200」「T350」「T400」のアイアン部門、「SM10」などのボーケイウェッジ部門があり、さらにクラブビルディング施設も併設している。

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
LOKERのエントランス。650人近くの社員が働く

アメリカ市場では、クラブカテゴリーにもよるが、注文の多くがカスタマイズされたクラブ。全米各地でオーダーを受けたカスタムクラブがここローカーで組み立てられ、出荷される。店頭にならぶ量産品のクラブを買う日本の消費行動とは異なり、ゴルフクラブの選び方、性能へのこだわりにも違いを感じる。

私がローカーを訪れた時期は昨年11月の終わりごろ。ここが会社の入り口?と思うほど飾り気のない殺風景な外観だったが、「2819」と番地が書かれた扉を開けると、その中は別世界が広がっていた。まだ朝の8時という早い時間帯だというのに、社員が忙しく動き回り、まさに活気に満ち溢れていたのだ。聞けば、コロナ後はリモートワークも無くなり、ほぼ全社員が出社しているという。ロサンゼルス名物の交通渋滞を避けるため、朝早い5時、6時ごろから早出し、夕方早々に家路に着く人が多いそうだ。朝8時などはまさにコアタイムということだ。

ゴルフクラブ研究開発部門で70名以上、クラブ専任のセールス、フィッティング、マーケティングやオペレーション部門なども含めると総勢650名を超える従業員が働いている。社内を歩いて回ってみる限り、人種も年齢もジェンダーもさまざま。そこかしこで彼らは立ち話をし、意見交換をしているようだった。

「パッション>腕前」 ゴルフへの情熱がクラブ作りに寄与?

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
工場内は朝から活気に溢れていた

「うちで働く人間は、本当にゴルフ好きが多いですよ。ゴルフに対してのパッション(情熱)が凄く強い人たちの集まりなんです」と話すのはゴルフクラブマーケティングのナンバー2(VP Golf Club Marketing)であるジョッシュ・タルギ氏。ジョッシュはパーカーにデニムというラフなファッションでインタビュールームに現れた。ゴルフの朝練明けに会社にフラッと立ち寄った、そんな雰囲気をまとっていた。

彼の話を聞いていて驚いたのは、社員を採用する基準のひとつに「ゴルフへのパッション」という項目があること。「リクルーティング時は、まずゴルフに対してのパッションがどのぐらいあるかをヒアリングします。ただ単にタイトリストで仕事したいというのは奨励していません」。パッションが採用基準とは半ば冗談と思って聞いていたが、ジョッシュの目は真剣そのものだった。

「R&Dだけでなく、マーケティングチーム、オペレーションチーム、アッセンブルチームなどいろんな部署の人間がいますが、みんなゴルフが好き。そのパッションの高さは確実にもの作りにプラスになります。いい製品ができる環境も生まれますし、マーケティングの観点からいえば、いいものを作ってそれを周りに伝えていこうと努力できるはずです」と熱く語った。

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
バリバリのアスリートゴルファー、ジョッシュ・タルギ氏

ジョッシュのゴルフ度の高さを聞こうと、その腕前を尋ねると「ハンディ0.4」という答えが返ってきた。約9年前にタイトリストに転職してきたときはHC11だったというから、その上達ぶりに驚く。「球を打つのが好きで、3日と空けずクラブを握っているよ。試作品のプロトタイプヘッドを打つことが趣味というのは、もう会社のみんなに知られちゃっているね」と目を細める。「腕前よりパッションが大事」とジョッシュは言うが、パッションが強ければ腕前もついてくるのだろう。

社内では毎年マッチプレーのチーム戦が開かれているという。ジョッシュももちろん選手として出場し、その相棒はオペレーションチームにいるブライアンだ。他にもドライバー開発部門トップのステファニーは、学生ゴルフ上がりでベストスコア67の腕前。クラブ開発や製品に関わる人たちがバリバリの競技ゴルファー、ゴルフへのパッションが社内で溢れていた。

「オプティマイズ>マキシマイズ」クラブづくりはいろんな要素の最適化

では今回の取材の心臓部である「クラブ研究開発部門」では、どのような仕事が行われているのだろうか。部門トップのチャック・ゴールデン(SVP Club Research & Development Titleist)氏をつかまえて、もう少し具体的な質問をぶつけてみた。ちなみにチャックも片手ハンデ(HC4.3)、ベストスコアは69という腕前だった(ローカーにアベレージゴルファーはいないのだろうか…)。

同部門は、GTシリーズなどのメタルウッドチーム、アイアンチーム、ボーケイチーム、その他リサーチチーム、新素材などを研究するイノベーションチーム、製品のコンセプトデザインを作成するインダストリアルデザインチーム、テストチームと様々なチームで構成される。さらにクラブ開発用のジグ加工や組み立てを補助する機械を作るマシーンショップもあり、実に多くの人が関わっている。「新GTシリーズ開発では、メタルウッドチームだけでなく、インダストリアルチームや、テストチームなど各分野のエキスパートたちがプロジェクトに参加しています」(チャック)

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
笑みを絶やさないチャック・ゴールデン氏

ドライバーの開発サイクルは基本2年。だが、イノベーションチームなどは、5年、10年先のことも視野に入れて動いているという。「10年後に何があるか分からない。当然その間は情報をアップデートし、その時に必要なものに対応できるようにしています。スピードだったり、音だったり、ボールフライトの安定感だったり、クラブ開発にプラスになるものをずっと追求し続けています」

インタビューの中で彼がよく口にする言葉があった。それは「マキシマイズ(最大化)ではなくオプティマイズ(最適化)」ということ。「何か1つの要素だけをマックスに持っていくのではなくて、全ての要素を平等に良くすることを目指しています。その要素はスピードだったり、重心コントロールだったり、エアロダイナミクスだったり。そうした複合的要素をミックスして完璧なバランスで作られたクラブこそ、プレーヤーにとってベストなパフォーマンスが出ると考えています」。彼らはいろんな要素の“最大公約数”を目指しているということだ。

いろんな要素をミックスするためには情報収集が欠かせない。「市場からの情報、パートナーからの情報、そしてフィッターからも情報が来ます。ツアープレーヤーからの意見も世界中からくるし、TPI(Titleist Performance Institute/クラブフィッティング施設)で取るモーションキャプチャー(クラブの動きを3Dで可視化する機器)の情報も入ってきて、実にいろんなデータを検証している。それらの情報を全部合わせて最適な落としどころを探求しているんです」

何かが突出すれば何かがマイナスになる。クラブ開発とはそんなトレードオフの関係にある。その中でオプティマイズ(最適化)するのは、かなりの難作業ではないか。例えば最近の流行である「高慣性モーメント(High MOI)」に関しては、どう考えているのだろうか。

「MOIを上げると当然スピードはダウンします。また、コントロールもしにくくもなるので、クラブをアップライトにしなきゃいけなかったり、フェースをフックにしなきゃいけなかったりする。我々はそこで自分たちに問いかけます。『それがスコアアップにつながるか?』。答えはNOですよね」

「GTシリーズ躍進のヒミツは?」クラブ開発の心臓部タイトの”LOKER”に潜入取材/大人の社会科見学SPECIAL in USA #1
会社の入り口前で写真に納まるチャック

ドライバー(ゴルフクラブ)に求められるものは、飛距離アップだけでもなく、安定性だけでもなく、スコアアップにつながるトータルパフォーマンス。タイトリストのモノづくりの根幹はここにあると言ってもいい。「やっぱり1発の飛距離じゃない。小さな枠だとしてもインプレーの状態に残らないと、次の2打目でグリーンを狙えないですよね。そうなると、インプレーの球が打てる中で、いちばん飛距離が出るのがいい。それが我々の求める“いいドライバー”です」(前出ジョッシュ)

◇◇◇

GTシリーズが成功したかどうかは、発売から数カ月の現時点だとまだ分からない。だが、ジョッシュやチャックの話を聞いていると、彼らがプレーヤーの求める“ベストを満たすモノづくり”をしているというのがひしひしと伝わってきた。(続く)(取材・構成/服部謙二郎)

*文中敬称略

この記事の画像をすべて見る
広告の後にも続きます
広告の後にも続きます
広告の後にも続きます

アクセスランキング

  • 総合
  • ツアー
  • レッスン
  • ギア情報

SPECIALコンテンツPR

こちらもおすすめ

GDOサービス

GDOのサービス