そこまでやる?「Titleist」の品質管理の細かさにおったまげたハナシ /大人の社会科見学 in USA #2
タイトリストのモノづくりのこだわり、彼らが持つアイデンティティについては前回詳しくお伝えした。そのモノづくりと切っても切れない関係にあるのが“品質管理”だ。いいモノを作ったとしても、製品にばらつきがあっては元も子もない。ローカー(タイトリストクラブ開発の拠点)を訪れて驚いたのは、品質管理に対する彼らの徹底具合。クラブをアッセンブルするためのひとつ一つのパーツ検品。そしてオーダー通りに作られているかどうかの品質検査は、とーーーっても厳しいのだった。彼らの品質管理の実態、そのこだわりをつぶさに観察してきた。(第2回/全6回)
一日の組み立て本数はなんと平均1万本
米国内のクラブ市場はカスタムが主力。アメリカはまさにフィッティング大国といえ、全米各地からオーダーを受けたフィッティングデータがローカーに届き、組み立てられ、そして全国に出荷されていく。
アッセンブル工場はメインオフィスに併設されている。ひとたび工場のトビラを開けると、中からけたたましい機械音が聞こえてきた。その敷地内には、クラブの組み立て部門、検品部門、出荷部門などがあり、約250人が在籍している。
「ローテーションを組んで、日々150人近くが作業をしています。勤務は週5日制で、朝6時から午後2時半までになります」。そう話しながら工場を案内してくれたのは、ブライアン・ラム(SVP OPERATIONS)氏だ。やさしい笑みを浮かべながら話しているものの、工場内に無駄はないか、作業に滞りはないかと、時折メガネの奥の目を光らせていた。
案内をしてもらった時間帯は午前中。まさにコアタイムで、スタッフはみなせわしなく組み立てや検査に取り組んでいた。彼らを見ていると、なんだか楽しそうで、ヒスパニック系の人たちが多いからか、ノリも明るい。カメラのレンズを向けると、照れくさそうにヨコにいる仲間とつつき合い、最終的に肩を組んでウィンクを寄こしてくれた(冒頭の写真)。
「一日の出荷本数は通常時で平均約1万本。ただし、時期によってばらつきがあって、新製品のローンチ時などは最大1万4000本までいきます。品質管理をした上だとそれが限界。繁忙期は人を追加したり、オーバータイム(残業)で対応しています」と細かく説明をしてくれた。
「GTシリーズのローンチ時は1.5時間ほどオーバータイムしてもらい、さらに月2回、土曜日を使ってなんとか乗り切りました。アメリカやカナダ、そのほか細かいマーケットの製品をここで作っています。パターに関しては全てここから世界中に出荷されています」
従業員の平均勤続年数は17年。比較的ベテランが多く、中には25年以上、働いている工員もいる。「カリフォルニアはいま、人材確保が難しい。特に彼らみたいなベテラン工員はとても貴重です」とブライアン。
「長く働いている人は、新人へのトレーニングも確か。どういうふうに組み立てるのか、どのぐらいの精度が求められるのか。グリップが曲がって入らないようにとか、フェースアングルがちゃんと真っすぐ入っているかとか、細かい部分までトレーニングを行って、我々のフィロソフィ(哲学)をしっかりと受け継いでいきます」
タイトリストは世界中にアッセンブル工場を持ち、各地のクラブは現地で組み立てる。新しく工場ができるときには、ラム氏を含めたベテラン工員たちが現地に出向き、クラブの組み立て方、タイトリストのクラブ哲学をレクチャーするという。実は一昨年の11月に日本にもアッセンブル工場ができ、その時指導にあたったのも“ブライアンご一行”だった。
組み立ての狙いは「オンターゲット」
ブライアンは工場内のとある場所で足を止めて、説明を始めた。「サプライチェーン」と呼ばれるパートナーから送られてきた、ヘッドやシャフト、グリップなど、クラブに必要な素材がうず高く積まれていた(コストコの倉庫のような場所を想像してもらうと分かりやすいかもしれない)。
タイトリストがデザインをして発注した各パーツ。抜き打ちで品質検査が入る。「もともとサプライチェーンの方で、品質管理は事前に厳しくやってもらっています。ですから、全部のパーツをやるわけではなく、一部をサンプリングで確認します。オンターゲット(狙い通り)になっているか。サンプルの抜き打ちチェックで品質管理が済むぐらいに、普段からパートナーとは密にやり取りしています」とブライアンは胸を張る。
抜き打ち検査をしたデータはパートナーと情報をシェアをし、さらにR&D(開発)部隊にも共有され、お互いに数字を見ながら管理体制を常に改善しているという。
例えばタイトリストのシャフトの審査基準はかなり厳しい。彼らの審査が通るならば、他メーカーならどこでも審査はクリアできると聞く。工場の品質検査の様子を見ている限り、その噂は真実だろうと思えてしまう。
検査後のヘッド、シャフト、グリップ、ソケットなどの各パーツは、オーダーシートに従って一つにまとめられ、組み立てられていく。「オーダーシートをスキャンすると、シャフトをどこで切るかなど細かく数値が出ます。ロフト、ライ、長さ、重さ、スイングウエートなど、その注文に合わせて組み立てられていきます」
ちょうど目の前では「T100アイアン」が組み立てられていて、ロフトとライ角を調整していた。「見てもらうと分かると思いますが、あのぐらいの力でクラブって曲がっちゃうんです。ですからクラブを運ぶ時、絶対に負荷はかけちゃいけない。クラブが簡単に曲がる事実は、皆さん知っておいたほうがいいかもしれないですね」。強面のブライアンだが、根はやさしいようだ。
ロフトとライを調整後、クラブ長を確認し、シャフトにステッカーを貼って作業は終了した。
と、思いきや、まだ終わらない。組み立て後、スイングウエートがターゲットに対してプラスマイナス0.5以内に収まっているかをチェックするのだ。
「『インスペック』という言葉があります。いわゆる許容範囲内という意味で、私が一番嫌いな言葉。我々は『オンターゲット』を目指します。つまりオーダーに対して誤差をゼロにする。ロフト56度のウェッジを作っていて、55度や57度は絶対にありえない」
ブライアンはとあるモニターの前で足を止めた。円周率のような数字の羅列が画面に映っている。「CPKと言って品質管理の数字が表示されます(3.714…や3.812…など)。ここは場内で私が一番好きな所。オンターゲットになったときに、画面が赤から緑に変わるんです。誤差がないことが一目瞭然なんです」。そう言ってブライアンは緑の画面に目を細めていた。
誤差を0.5以内に収めるために、大事なポイントがある。それはクラブを組み立てる機材側の精度だ。工場内にある機材は、正確を期すために全て社内のマシーン部門が設計したもの。中でもアイアンをチェックする「ミッチェルゲージ」という機械が優れものだとブライアンは誇る。
「アイアンを曲げるところを見たことはありますか? 曲げるのはいくらでも曲げられる。ですが、ヘッドを真っすぐセットして、しっかりスクエアをとった上で曲げるのが難しいんです。熟練の工員でも、0.5ぐらいの誤差は出てしまいます。ですがこのミッチェルゲージを使えば、誤差は0.01ほどに収まる。スコアライン、ロフト、ライ、ホーゼル、内径、外径、全部測りながら作業しています」とブライアン。
ちなみにミッチェルゲージは世界各地のツアーバンに搭載されている。ツアープロが毎週のように移動を繰り返す中でも、ロフトライの変化を少なくすることに貢献しているそうだ。
品質保証の管理も徹底
続いて、ブライアンは別の場所に移動した。ウェッジに水をかけ、錆のテストをしているスタッフと楽しそうに話をしていた。聞けばそのスタッフは社歴30年、ブライアンが全幅の信頼をおく大ベテランだ。
「150時間かけてテストをし、錆びの具合を見ています。業界は平均8%の錆まで許容しますが、うちはスタンダード0%を目指しています」。ここでは製品の耐久性の管理をしているわけだ。
サンドウェッジの横では、ドライバーのクラウンに砂をかける作業もしていた。「これはいわゆるサンドブラストというものです。塗装がちゃんと密着しているかをテストしているんです」。ヘッドに塗装をして終わりではなく、耐久性のテストまでしている。「うちの場合、ドライバーは2年サイクルで出しています。その2年間の最初から最後までちゃんと品質の保証ができているかどうか、こうして必ずチェックしているわけです」
その後も工場の隅々まで案内して回ってくれたブライアン。ひと通りの検査や作業を見て思ったのは、働く人たちの一人一人が、タイトリストのクラブ哲学を理解し、製品の質を保つことの重要性を認識しているということだ。
それこそ社員教育も「オンターゲット」ではないか。どんな製品を作るにしても誤差は生まれるものだが、彼らはそれをゼロにするための努力を惜しまない。
アメリカの品質管理にはよっぽど雑なイメージを持っていたが、そんなことを言ったらブライアンに怒られそうだった。タイトリストのクラブの“再現性”が高いのは、こうして陰で製品を支える人たちがいてこそなのだろう。(取材・構成/服部謙二郎)