シャフトメーカーのフジクラが“地元”のジュニアゴルファー活性化のために本気で取り組む大会とは

福島県に製造拠点を置く藤倉コンポジットが、2023年から開催するジュニア大会がある。地元・東北と北海道に在住する小中学生、高校生を対象とした『Fujikura東北ジュニアカップ』だ。ゴルフの裾野を広げることと、ジュニアゴルファーの活性化を目的とし、今年も4月4日に福島県南相馬市の鹿島カントリー倶楽部で開催された。青空が広がった当日は125人が参加し、笑顔の花が満開となった。
前身は2010年の小学生大会

今年で3回目を迎えた『Fujikura東北ジュニアカップ』。実は15年前の2010年に前身となるジュニア大会を開催している。当時、藤倉コンポジットで東北・北海道地域の営業担当だった菅野治緒氏は次のように語る。
「東北や北海道を回っていて、(ジュニア大会が少ないこの地で)ゴルフの底辺を広げるため、子供たちにメーカーとして何かできることはないかと考えていたときに、『フジクラさんで大会を開くのなら協力しますよ』というお話を各所からいただいた。鹿島カントリー倶楽部さんからも喜んで力を貸していただけると」
すぐに会社の上層部と話し合いがもたれた結果、GOサインが出る。菅野氏にしてみれば、ジュニアの大会を開催するノウハウはなかったが、東奔西走した結果、東北を中心とした全国から100人以上の小学生が集結。大会は大盛況のうちに終わった。

「当然、第2回も開催するつもりで、準備を進めていたのですが、大会直前になって、東日本大震災に見舞われてしまったんです」。2011年3月11日に東日本を襲った地震は、福島第一原子力発電所の事故を誘発。鹿島CCがある南相馬市も一部避難地域に指定されるなどあり、大会はやむなく中止となった。
その後、避難していた人々も戻り、再び活気を取り戻した南相馬市。藤倉コンポジットの社内や地域などからもジュニアカップの復活を求める声が出てきたこともあり、2023年に小学生だけでなく、中学生、高校生も含めた大会としてついに再開されたのだ。ゴルフシャフト事業50周年の節目の年でもあった。
昨年大会から北海道在住ジュニアも出場

「やはりこの地でシャフトの製造を長年行っていますし、何かを発信したいというのがひとつ。さらに、弊社が主催する『Speeder CHALLENGE(スピーダーチャレンジ)』にも中高生のジュニアが出場していますが、その下の世代にも試合の楽しさや悔しさを知ってほしいと考えて開催しました」と、藤倉コンポジットACP事業部部長の若林雅貴氏は語る。鹿島カントリー倶楽部から車で数分のところには、同社の原町工場があり、まさにお膝元での開催となっている。

前身の大会は全国から小学生が集結したが、リニューアル後は東北に在住するジュニアに限られていた。しかし、昨年からは北海道在住のジュニアにも門戸を開く。この時期、北海道や東北北部の県はゴルフ場が雪に覆われているため、ラウンドできないことが珍しくない。遠征費を捻出するとはいえ、芝の上でボールを打てるだけでもジュニアには望外の喜びだ。ましてや、大会という真剣勝負ができるとなれば、より一層気合いが入るというもの。
北海道から参加した小学生に話を聞いてみると、「久々のラウンドなのでものすごく楽しみにしていました。当日までウキウキが止まりませんでした」と素直に喜びを表現した。基本的に小学生にはゴルフを楽しんでほしいという主催者側の意向で、その思いは十分届いていた。
被災地の福島で行うからこそ意義がある
中学生ともなれば、出場する試合も増えるため、全国各地に遠征するジュニアは少なくない。帯同する保護者に話を聞くと、被災地となった福島県で開催されることに意義を感じるという。
「震災があったという情報は知っていても、やはり現地に来るといろんな話を聞けますし、どれだけ大変だったのかを子供に教えることができますからね」とは北海道から参加した女子選手の父親の言葉だ。「震災の被害やそこからどのようにして復興したのかなど、生きた社会学習は今後の人生において必ず糧となる」と話す。
もちろん、大会が始まればジュニアはプレーに集中する。スタートホールのティイングエリアに立った瞬間、中高生はもちろん小学生でも真剣な表情に変わり、ピリピリとした空気が漂っていた。試合後は、負けた悔しさで思わず涙を見せる選手もいたほどだ。
そんな様子を“神スイング”で知られるタレントの稲村亜美さんも見守っていた。ゴルフネットワークの情報番組「稲村亜美・アンタッチャブル柴田の『ゴルフスイッチ!』」でMCを務めており、前々回2023年大会の撮影に続き、2度目のリポート。「自分と戦いながらスポーツしている姿はすごいなと思いますし、尊敬しますね。真剣にゴルフと向き合っているんだなと感じました」。同伴競技者や大会スタッフには礼儀正しく接し、自分を厳しく律する。団体スポーツとは違ったゴルフの特性に稲村さんも終始感心していた。