「ELYTE」ドライバーを一斉計測!石川遼が“X”を使えるワケが分かった /外ブラ1W研究#4
テーラーメイド、キャロウェイ、ピン、コブラ、タイトリスト、5メーカーの最新ドライバーを徹底研究。ヘッド計測をクラブ設計家でジューシーを主宰する松吉宗之氏に、試打を野仲茂プロに依頼した。今回はキャロウェイ「ELYTE」シリーズ3モデルを計測!
数字の詳しい説明は下記の記事を参照してほしい。
“25年外ブラドライバー一斉計測”して分かった!依然「重心深度>重心距離」傾向が強め/外ブラ1W研究#1
本特集では「重心深度」と「重心距離」の関係に注目。「2つの数字が近い(差が1~1.5mm程度)と、ヘッドから感じるヘッドの印象が普通、深度のほうが大きいと、やさしい、つかまってくれる。逆に深度のほうが浅いと、つかまらない、すべる、ちょっと難しい…という印象になると思います。大前提として、それぞれの数値の大小が顕著であれば、この数字を重視して性能を判断します」(松吉氏、以下同)
そこで、普通を黄色、つかまるクラブを青色、つかまらないクラブを赤色で示した。
まあまあやさしいスタンダードモデル
まずはスタンダードモデルから。
「『ELYTE』はどのモデルもつかまり系のバランスで設計されています。重心深度が重心距離に比べて“若干深い”のがキャロウェイのポイントですね。これにより、ちょっとやさしいドライバーに仕上がっています。ちょっとやさしいと言っても、このスタンダードモデルはバランスの取れた数字が並んでおり、ほどよくやさしいです。重心角26.4度はまあまあつかまる感じで、左右MOIも5000 g・cm2を超えており、ミスヒットに対する寛容性も高い。かつてキャロウェイは重心距離の長いドライバーを作っていましたが、今は他社よりも短いくらい。自分でつかまえる動きができるドライバーが狙いどころなのでしょう。これをプロに打たせると、人によっては左に行くと言うかもしれません」
Xは右に行く人を助けてくれる
次に、ドローバイアスの「X」。
「まあまあやさしいスタンダードモデルの、つかまり性能をグッと上げたのがこの『X』です。どうしても右に行ってしまう人に対して、フェースを真っすぐ向けてインパクトさせようというのがコンセプト。重心深度が44.6mmと深く、対して重心距離が41.5mmと短いです。これにより30.3度の重心角がついており、フェースが左を向いてインパクトしやすくなっているわけです。言うなれば、正しくスイングできていない人を助けてくれるドライバーです」
話はここで終わらない。近年はプロ及び上級者仕様の「◆◆◆(トリプルダイヤモンド)」を使ってきた石川遼が、ELYTEではこの「X」を選んだ理由を聞かねばならない。「取り組んでいるフェースローテーションを抑えたスイングには、勝手につかまってくれる『X』が合います。フォローでフェースを開くように使いやすい」と石川は話している。
「強振して飛ばすには慣性モーメントが大きいモデルを選びたい、というのが根底にあると思います。今まで石川選手はインパクトに向けてつかまえにいく動きを意識していたようですが、大慣性モーメントヘッドは自然とつかまる性能があったほうがより安心して振れます。Xの重心距離は41.5mmとそれほど長くないので、一般的には「つかまえられる」性能として解釈できますが、その反対もしかりで「逃がしやすい」とも言えます。つまり強振する中でも開くほうへの“調整性”を残したクラブ。フェースコントロールにとても優れる石川選手が、感覚を残しながら進化したスウィングに合わせていくという、非常におもしろいアプローチだと思います」
◆◆◆はイメージほど難しくない
最後に、プロや上級者に人気の◆◆◆。2つのウエートポートを持っているが、今回は初期設定のフロント4g、リア9gにて計測した。
「◆◆◆は左に行ってほしくない人向け。重心距離はやや短くフェースコントロールをしやすいですが、難しくてつかまらないようなクラブではありません。もっとつかまりを抑えたい場合は前後のウエートを交換すればよいでしょう。注目すべきは左右MOIの4606 g・cm2です。460ccでこの数字ならまずまずですが、◆◆◆は435ccなので、設計でかなり頑張ってMOIを増やしています。ツアーモデルの位置づけですが、実は意外とフレンドリーで打ちやすく、ミスにも強いと言えます」
みんなに”ほどよくやさしい”のがキャロウェイ
ELYTEの計測後に松吉氏は、近年のキャロウェイのドライバー作りの印象を語った。
「キャロウェイは『E・R・C・II』などの高反発モデルの頃からずっと『テクノロジーで初速性能をアップさせる』ことを追求してきたと感じます。近年はそこにAIを使用し、他社と一線を画した設計を行っており、その初速性能を発揮するために、ターゲット別にほどよくやさしいと感じる重心性能を常に作っている印象です。ただ、ツアープロとなるとそのやさしさが不要となる場合も多いので、◆◆◆のように、使いやすさをツアープロに絞ったモデルを別に作って対応。近年はその“裏メニュー的プロモデル”をそのまま販売する手法も定着してきている感じです」(取材・構成/中島俊介)

松吉宗之(まつよし むねゆき) プロフィール
ジューシー株式会社の代表取締役。ゴルフクラブメーカーにて、クラブの設計開発に20年以上携わる。2018年にジューシー株式会社を設立。自社製品だけでなく、OEMでの設計も行う。3D CADを用いたデジタル設計をいち早く導入し、数値に裏付けられた革新的な性能のクラブを多数開発。その傍ら、膨大な数のクラブヘッドを自身で測定し、ゴルフクラブの性能や製法の進化を独自に研究し続けている。