「G440」ドライバーを一斉計測 3機種とも他に類を見ない“超・低重心”/外ブラ1W研究#6
テーラーメイド、キャロウェイ、ピン、コブラ、タイトリスト、5メーカーの最新ドライバーを徹底研究。ヘッド計測をクラブ設計家でジューシーを主宰する松吉宗之氏に、試打を野仲茂プロに依頼した。今回はピン「G440」シリーズ3モデルを計測!
数字の詳しい説明は下記の記事を参照してほしい。
“25年外ブラドライバー一斉計測”して分かった!依然「重心深度>重心距離」傾向が強め/外ブラ1W研究#1
本特集では「重心深度」と「重心距離」の関係に注目。「2つの数字が近い(差が1~1.5mm程度)と、ヘッドから感じるヘッドの印象が普通、深度のほうが大きいと、やさしい、つかまってくれる。逆に深度のほうが浅いと、つかまらない、すべる、ちょっと難しい…という印象になると思います。大前提として、それぞれの数値の大小が顕著であれば、この数字を重視して性能を判断します」(松吉氏、以下同)
そこで、普通を黄色、つかまるクラブを青色、つかまらないクラブを赤色で示した。
深重心のデメリットを解消するために
まずはシリーズの中核をなすMAX。その前に、ピンのここ数作を振り返ってみるとG440に連なるストーリーが見えてくると松吉氏は言う。
「ヒット作となった『G410 PLUS』(2019年)は、フェースを高確率でスクエア(もしくはそれに近く)にインパクトできるなら、誰が打っても真っすぐ飛ぶクラブでした。次に登場した『G425』では、G410で取り込めなかった人をどうするかが開発課題になったことは想像に難くなく、とにかく左に行きやすい重心設計でした。G410で真っすぐ打てなかった人が真っすぐ打てるクラブ、と言えばいいでしょう。しかしこれは、アマチュアには好結果をもたらしましたが、プロや上級者にとっては“扱いにくい”クラブになってしまったのです」
「その次の『G430』ではシリーズ内に様々なモデルを配し、全体的には“G425ほどではないけれどつかまる感じ”になりました。これも、アマチュアからの支持は強烈でしたが、トッププレーヤーにとってはまだ少しつかまり過ぎるきらいがありました。左に行かないようにするには重心距離をさらに長くしてヘッドの動きを抑える必要がありますが、それだとピンの根幹とも言える『やさしさ』から離れてしまう。このやさしさとは、深重心設計がもたらす重心角やスイートエリアの広さなのですが、深重心のデメリットはインパクト時のロフトが増えてスピンが増えることです。ボールが上がらない人にとってはメリットですが、ヘッドスピードが速くて真っすぐインパクトできる人にとってはデメリット。これを解消するには“さらなる低重心”にするしかなかったのです」
これを踏まえて、MAXならびにシリーズ全体を俯瞰する。
「今回の3モデルはどれもピンのコンセプトである大MOIや深く長い重心設計を踏襲しています。ポイントは重心高1で、MAXはめちゃくちゃ低重心なんです。25mm台は本当に低くて、他に類を見ないほどの低重心設計と言えます。左右MOIも市販モデルでトップクラスに大きく、ミスに強い。重心角も大きくてつかまりもいい、そして低スピン。正しくスイングできる人にとっては大きな武器になる可能性を秘めています」
SFTはMAXを踏襲
続いて、つかまりがいいSFT。
「このSFTは、概ねMAXを踏襲した作りです。大きな違いは重心距離で、MAXよりも短い。これによりインパクトでヘッドが左を向きやすいので、MAXで右に行く人を救済できる。作りわけが素晴らしいと思います」
誰でも打てるロースピンモデル
最後に、プロや上級者に選ばれるLST。
「LSTはMAXおよびSFTと比べてヘッド体積が小さく、構えやすさや振りぬきやすさを重視しています。比較的ミート率が高めのプレーヤー向きだと言えるでしょう。左右MOIが 5000 g・cm2を超えてはいますが、MAXよりも数値が小さいところを見ると、上下MOIもMAXよりも小さいはず。重心高2(有効打点距離)で打った場合はスピンが減る可能性が高い(※)。つまり、スピン量を抑えながら、ピンのお家芸でもある深重心設計により高弾道低スピン弾道が打ちやすいので、結果飛ぶ球になりやすい。そのように数値から分析できます。アマチュアは『上手い人と同じクラブを使いたい』と思うもの。その点、ピンのLSTはつかまり具合が大きいので、一般ゴルファーでも十分使えます」
※上下MOIが小さいとインパクトでヘッドが飛球線後方にヘッドが傾き、ギア効果により順回転をかける働きが起きてスピンが減る
スイングがピンの思想に追いついた
G440シリーズの計測を終えた松吉氏は、ピンの設計思想と現代のスイング理論の合致を指摘する。
「社名の由来であるピンという音が出るパターを作った頃から一貫して、『慣性モーメントを高める設計』がピンのフィロソフィーだと感じており、極長・極深の重心はその表れだと思います。この独自路線はかなり前から変わらず、G410が登場する10年くらい前からずっと左右MOIが5000 g・cm2に近いモデルを作り続けてきました。その間に、フェースの向きを積極的には変えずに軌道で弾道をコントロールするスイングが世界のトレンドになってくるなど、大慣性MOIを受け入れる市場が成長し、G400やG410シリーズに時代が追い付いた感じを受けています」
「『大慣性MOIクラブをどうしたら打ちやすいのか?』という命題に大きなアドバンテージを持っていたことがG410シリーズの爆発的なヒットにつながりました。それ以降は、トレンドのスイングを持たないゴルファーへもユーザーは拡大。大慣性MOIヘッドをさらに打ちやすく、また、大慣性MOIの弊害ともいえる深重心によるスピン量増加を抑制する試みなど、幅広いゴルファーに向けた性能を追求していると感じます」(取材・構成/中島俊介)

松吉宗之(まつよし むねゆき) プロフィール
ジューシー株式会社の代表取締役。ゴルフクラブメーカーにて、クラブの設計開発に20年以上携わる。2018年にジューシー株式会社を設立。自社製品だけでなく、OEMでの設計も行う。3D CADを用いたデジタル設計をいち早く導入し、数値に裏付けられた革新的な性能のクラブを多数開発。その傍ら、膨大な数のクラブヘッドを自身で測定し、ゴルフクラブの性能や製法の進化を独自に研究し続けている。