いいMT車は乗った瞬間“スポーツ"が始まる レクサス「LBX MORIZO RR」/クルマはゴルフギアである#2
「時間があったらクルマを運転しています」という稀代のクルマ好きである安東弘樹氏に、大人ゴルファーの“持ち物としての”クルマ選びを提案いただく本連載。車体価格や燃費などの経済性だけでなく、所有すること、使うことでオーナーが豊かになれるクルマが選出条件だ。第2回で氏が挙げたのは、レクサスきってのスポーツモデル「LBX MORIZO RR」だった。(構成/編集部・中島俊介)
絶品のシフトフィールを堪能できる
レクサス「LBX MORIZO RR(以下、MIRIZO)」を選んだ理由は、シフトフィールがめちゃくちゃ良いからです。シフトフィールとは、MT(マニュアルトランスミッション)車のギアチェンジの時にシフトノブを動かしてギアを入れる感触のことを指すのですが、これはAT車では絶対に味わえない感覚で、MT車をチョイスした人の特権です。
MORIZOはレクサスブランドで唯一のMTモデル。普通のLBXもありますが、本モデルは“モリゾウ”こと豊田章男さん(トヨタ自動車前社長で現会長、国際レースに出場したり開発ドライバーを務めたりするなど運転スキルが非常に高い)が肝いりのテストを重ねて作り上げたもの。運転して楽しいクルマを、豊田さんとレーシングドライバーが妥協せず仕上げられました。ではなぜこれがゴルフギアと呼べるのか。その理由はコースまでの道中で“スポーツできる”からです。乗り心地や操作がゆったりとしたクルマでコースまでのドライブをのんびり楽しむのもいいですが、MIRIZOは、運転席に座った瞬間からスポーツが始まるんです。エンジンに火を入れ、クラッチペダルを踏んでシフトレバーを1速に入れる、アクセルを踏んでクラッチをつなぎ始める、速度が乗ったらギアを上げていく…これらの能動的な運転行為がすべて気持ちよく感じるように設えられているんです。
通常モデルとは別物の味付け
前述したように、レクサスには普通のLBXもラインアップされます。こちらはATで、穏やかに走れるクルマです。しかしこのMORIZOはそれとは別物。エンジンや足回りのセッティングも含めて、スポーツカーに仕立てられています。パッと見はLBXですが、細部を見るとMORIZOだとわかる。逆に、細部を見ないと判別できない人も多いでしょう。この「わかる人にはわかる価値」というのが、所有欲につながると思います。スポーツカーのように走れて、成り立ちはSUVですから積載性も担保されています。
車高もちょうどよくて、SUVだけど高すぎないのがいいですね。ホイールベースも長くなく(2,580mm)、きびきび動くので、もしかしたらセダンタイプよりも走りは楽しいかもしれません。さらに、タイヤのサイズや扁平率もちょうどよく(235/45R19) 「いいとこ突いたなあ」と感心せざるを得ませんでした。私が想像するに、初めからこのディメンションでいい走りを追求したというよりは、作っていて気付いたらこのサイズになり、このサイズにしたら大変にスポーティなクルマに仕上がったのではないでしょうか。心身ともにアクティブなゴルファーにうってつけの1台だと強く思います。
速さよりも気持ちよさ
実はこのMORIZO、ラリー競技用のベース車両にもなっている「GRヤリス」と中身は同じなのですが、私は試乗時に、GRヤリスのシフトフィールとは明らかに異なると感じました。不思議に思ってトヨタの広報の方に尋ねると、基本的に機構は同じ、と最初は仰っていましたが、私は「全く同じということは考えられません」と食い下がリました(笑)。そうしたら後にエンジニアの方が「MORIZOはシフトケーブルの先に振動防止のためのウエートを付けています」と教えてくださいました。私にはこのウエートがシフトフィールの向上に寄与しているように思えてならないのです。
豊田会長は常々、自社のラインアップにマツダ「ロードスター」のような軽量スポーツモデルが無いのを残念に思っていらっしゃいました。「GRヤリス」はいかに速く走るかを念頭に置いたクルマですが、このMORIZOはそうじゃない。五感で受け取れる感触の良さがある、素晴らしいスポーツカーだと私は思います。ゴルファーの皆さんにもこの気持ちよさを楽しんでもらいたいですね。
ひとつだけ注文を付けるとしたら、助手席にもパワーシートが欲しかったです。レクサスブランドのクルマで助手席の方がシートを調整するとき、よっこらしょとシートを動かすのは寂しいじゃないですか!
<Specification>
●全長×全幅×全高:4,190mm×1,840mm×1.535mm
●乗車定員:5名
●車両重量:1,450kg
●駆動方式:AWD
●WLTCモード燃費:12.5km/L
●エンジン:1.6L直列3気筒インタークーラーターボ
-最高出力:224kw(306PS)/6,500rpm
-最大トルク:400Nm/3.250~4,600rpm
●車両本体価格:6,500,000円(税込)
-試乗車価格:6,833,300円(税・各種オプション込)
取材協力:米原ゴルフ倶楽部
写真:篠原晃一
イラスト:酒井恵理

安東弘樹(あんどう ひろき) プロフィール
元TBSアナウンサーにして大のクルマ好き、いや“クルマ狂”。50台ほどのクルマを乗り継ぎ、TBS勤務時代から自動車ローンが途切れたことがないという。独自の視点から切り込む自動車関連のコラムを各種媒体で連載中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で日本自動車ジャーナリスト協会会員。