上田桃子プロが考える『距離感』-ゴルフ、数字、人との“距離”を読み解く
2007年、史上最年少(当時)となる21歳で賞金女王に輝いて以来、日米で活躍し、2024年シーズン限りでツアープロとしてのキャリアにひと区切りをつけた上田桃子。引退ではなく“活動休止”。復帰の可能性も残しつつ、現在は20年間戦い続けたツアーの世界を一歩離れた立場から見つめている。ゴルフ、後輩たち、そして応援してくれるファンと、どう向き合っていくのか。『距離感』をキーワードに、上田の「今」と「これから」に迫る。
■“伝える”立場に立って見えたゴルフの裏側
ツアーの第一線を離れても、「プロゴルファーであり、ゴルフが大好き」という気持ちは変わらない。今年は国内女子ツアーと米女子ツアー、数試合で解説を担当した。「伝えることの楽しさと難しさの両方を感じているのですが、どちらかといえば、楽しさの方が大きいですね。一番はゴルフを見られること。ゴルフをやるのも見るのも好き、と改めて感じています」
独特の緊張感を漂わせていたプレーヤーとしての姿とは違う柔和な笑顔でそう話した。解説を務めていない時でも、男女のツアー中継はチェックするという。「いちファンとしての目線もありますし、新しい選手が出て来れば、この選手はどんな特徴があって、どんなところがいいのかなと思って見ています」
将来的には指導者の道に進むことを考えており、そのための勉強のひとつ。同時に「私もこうやってトライしてみたいなと思うショットやパットがたくさんある」という。
実はツアーを離れて真っ先に取り組みたいことのひとつが体作りだった。筋肉痛を抱えた状態では試合はもちろん、満足な練習もできないため、ツアーを戦いながらハードなトレーニングを積むのは難しかった。「そういうものを取っ払って、体を仕上げたらどうなるかが楽しみです。体が整っていないとできないことがたくさんあると思っています」
プレーヤーとして培い、一歩離れた立場でより洗練させつつある理論が正しいのか、自らの体を使って検証するといったところだろう。
伝える側を経験して意識が変わったこともある。
「ツアーの裏側ではこれだけ多くの方がゴルフを見せるために努力し、工夫してくれている、ということに気付けました。選手としてコースを歩いている時にはなんでこんなに近くに来るのだろう、集中できないよと思っていたのですが、こういう時の表情にこそ人間味が出る。どっちの気持ちも分かるし、必要なことだと思うようになりました」
■数字と感覚のあいだにある「距離感」
選手とカメラという意外なところで距離の話題が出てきたが、今回、『距離感』というテーマを選んだのは、ゴルフにおいてそれが本質的な要素だからだ。上田は、距離計が一般化する前から目測で距離を読み、感覚を研ぎ澄ませてきた世代。ツアーに入ってから距離計が一般的になり、近年では試合中の使用も認められるようになった。
「距離感は数字だけでもダメだし、感覚だけでもダメだと思っています。私は長年、ニコンのレーザー距離計を使用していますが、これは自分の感覚が合っているのか、マッチングさせるものだと思っています」
長年、磨いてきたものであっても感覚は一定ではない。
「アマチュアの皆さんも同じだと思いますが、私も調子がいい時はピンが近く見えるし、調子が悪ければ遠く感じます。例えば、135ヤードと思った距離が計測すると139ヤードだったりします。私にとっては9番アイアンから8番アイアンにクラブを持ち替えなければいけない違いです。そんな時は、今日はそういう日、勇気を持たないといけない日だと割り切ってプレーしていました」
常に感覚を研ぎ澄ませながらも、距離計に頼るときはしっかり頼る。こだわりと柔軟さを併せ持つことが長くトップ選手として活躍してきた所以のひとつだろう。




















