実はヘッド形状より大事な “ネック形状”についてじっくり考える/オグさんのパター偏愛日記#11
ネックが及ぼす大きな影響
今回は「ネックの違いによるパターの特性」について。パターヘッドの形状は無数にありますが、ネック形状は数種類しかありません。しかしそのネックは、パターの性能を左右する大変重要な機能を担っています。同じヘッドでもネックが異なれば、性能には大きな差異が生じます。そして、このことは意外と知られていません…。
ネック違いによる特性は、主に重心距離とオフセットによって表れ、ヘッドの挙動に大きく影響します。そこで、スコッティキャメロン「スタジオスタイル」シリーズ内の、ほぼ同じヘッドでネックの異なるモデルを使い、振り心地や性能にどう影響するのかを説明していきます。
■クランクネック
構えやすくつかまえやすい定番形状
クランクネックはピンの創設者カーステン・ソルハイムが「アンサー」の開発時に生み出したネックで、英語ではプランバーズネック(plumber=配管工)と呼ばれます。配管工が作業する曲がったパイプに似ているのがその理由。
ヘッドのヒール側から伸びたネックは垂直に立ち上がり、2回曲がった位置にシャフトが装着されます。クランクネックは、シャフト軸線からフェース面を後方に下げ、重心距離をほどよく長く、重心を少しだけ高くします。オフセットはつかまり性能を高めて右のミスを軽減する効果があります。ほどよい重心距離の長さはヘッドが開閉しようとする力を適度に抑え、方向性と操作性を両立させています。そのため、ヘッドを真っすぐ動かしてフェース向きを極力維持したい人(ストレート軌道)、扇形の軌道でヘッドを開閉させたい人(アーク軌道)のどちらにも扱いやすく、多大な支持を得ています。
クランクネックには視覚的な部分にもメリットがあります。フェース面と垂直に見えるラインによりフェースの向きがわかりやすく、正確なセットアップを促します。また、少しだけ高いフェース面重心位置はダウンブロー気味にボールをとらえるストロークにマッチしやすいです。右へのミスが起きにくい半面、左へのミスを起こしやすいデメリットも。また、アッパーブローで打つ人にとってはフェース下部でヒットしやすいです。
<まとめ>
●メリット
目標に合わせて構えやすい
右へのミスが減りやすい
ストロークタイプを問わず使える
●デメリット
左へのミスが起きやすい
アッパーブローに打つとフェース下部に当たりやすい
●合う人
アーク軌道、ストレート軌道どちらでも
ダウンブローにヒットできると尚良い
■スラントネック
ヘッドを開閉させやすく操作性が高い
ネックの長さが短いものが多く、他のクラブに近い挙動をします。重心距離が長いためヘッドが開閉しようとする力が大きく、アプローチショットと同じようなイメージでも打てます。また、扇形の円弧がより曲線的なストローク(アークの大きいタイプ)にマッチしやすいです。
打点を意図的に変えて転がりに差を出すことも可能で、この点からも「操作性が高い」と言われます。当然デメリットもあり、打点がばらつく人にとっては転がりが安定せず、ストレート軌道をイメージする人にとってはフェース向きが変わりやすいです。
オフセット量はモデルによって異なり、フェース面の位置がシャフトの右側面に揃うフルオフセットと、シャフト軸線とフェース面が揃うハーフオフセットがあります。
<まとめ>
●メリット
操作性が高い
●デメリット
打点が安定しないと距離感が出ない
ストレート軌道には合いにくい
●合う人
曲率の高いアーク軌道
■ベントネック
シャフトの曲げ方で性能を自由に調整できる
ベントネック(bent=曲がった)は、実はヘッド自体にはネックがほぼありません。目的の性能を狙って曲げたシャフトによって重心距離やオフセット量を調整しています。シャフトの曲げ方にはいくつかあり、一カ所曲げただけのシングルベント、二カ所曲げたダブルベントなどが主に使われています。そのため、ベントネックだから重心距離やオフセット量が一定である、という見方はできません。
ベントシャフトに多いのは、ダブルベントで重心距離がゼロのいわゆるフェースバランスに、シャフト右側面にフェース面が揃うフルオフセットです。スコッティキャメロンのベントシャフトは、フェースバランスではなく重心距離をわずかに設けています。重心距離が短いほどストローク中にヘッドが開閉しようとする力が小さいため、フェース面をあまり開閉させないストローク、ストレート軌道をイメージする人にはマッチしやすいです。デメリットは、テークバック中にフェースを開いてしまうと、閉じる動きを入れなければ右へのミスが起きやすいこと。右へのミスが起きやすいならオフセット量の大きいモデルがマッチしやすく、左へのミスが起きやすいならその逆ですので、パター選びの際に覚えておくといいと思います。
<まとめ>
●メリット
オフセット量を調整できる(ただし設計段階で)
●デメリット
フェースを開いてしまうと打ちにくい
●合う人
ストレート軌道やそれをイメージしたい人
「重心角」と「トウハング」
重心角とは、ヘッドを宙に浮かせてシャフトを支えたとき、フェース面とシャフト軸の垂直線が作る角度です。ドライバーなどでは、この角度が大きいほど球がつかまりやすくなります。
パターではこの「重心角」の代わりに、トウハングという表現が使われます。トウ(先端)がどれだけ下がるかで、そのパターの特性がわかります。トウハングの大きさは重心距離の長さにほぼ比例します。ほぼというのは、重心深度も関わっているからで、マレットのような重心深度の深いパターは、浅いモデルに比べてトウハングも小さくなりやすいです。パターの場合は、オフセットの量も影響します。
トウハングが大きいパター
→ ストローク中にヘッドが開閉しやすく、アーク軌道に向いています。
トウハングが小さいパター
→ ヘッドの動きが安定しやすく、ストレート軌道に合います。
クランクネック搭載のモデルは、トウハングが45度付近、どちらのタイプでも扱えるので多くのゴルファーに愛されているのも頷けます。ネックはトウハングの大きさを決める要素とも言え、ストロークのしやすさに大きく影響します。ある意味ヘッド形状よりも重要かもしれません。
大型マレットになると、前述した通り重心深度の影響が色濃く、重心の深いモデルほどトウハングは小さいです。巷ではマレットタイプはストレート軌道のストロークにマッチすると言われますが、ベントネックとの組み合わせが多いという理由の他に、トウハングが小さいものが多いことが関係しているのでしょう。
自分のタイプが分からないのであれば、自然にストロークした時のヘッドの動きを知り合いなどに見てもらうか、動画を撮ってチェックすると良いでしょう。ひとまず、自分のストロークタイプとそれに合うネック形状を知っておいて損はないと思います。
ちなみにストロークにおけるアークの度合いや軌道は、アドレス時の前傾角度や肩の動かし方でそれぞれ異なります。自分のアドレスや動き(のイメージ)も知っておくと、より適したパターを見つける近道がひらけます。
自分にとって“再現性”の高いネックを探したい
どのネックを選ぶかですが、こだわるべきポイントは、ボールをどれだけ再現性高く、狙ったところに打ち出せるかという結果にあります。その結果を導き出せるヘッドは、どれくらいのトウハングがあり、どれくらいのオフセットがあるのか? つまり、どんなネック形状なのかを理解しておくことが、パター選びで最も大切な要素だと思います。そこさえ押さえておけば、ヘッド形状や重さの異なるモデルを複数使い分けることが容易になり、その時のフィーリングやグリーンの状態に合わせて柔軟に対応できるようになります。
私自身は、普段センターシャフトのパターを愛用しています。そして、その中でも重さの異なるモデルを使い分けることで、グリーンの速さや芝の状態などに対応しています。以前は1本のパターで対応していた時期もありましたが、調子が悪くなったときに「逃げ場がない」状態になり、気分転換ができず悪い流れを引きずってしまうことがありました。今では複数本のパターを使い分けることで、そうした問題も回避できています。もちろん、ネック形状がまったく異なるモデルを使い分けることも、気分転換には効果的です。ただし、調子を安定して維持したい場合には、少し難しくなる面もあると、個人的には感じています。
パターは、芝の上を転がして使うクラブであるがゆえに、最も外的要因(グリーンの速さ、芝目、傾斜など)の影響を受けやすいクラブです。だからこそ、自分自身のストロークにおける再現性は、できる限り高めておきたいもの。そのためには、自分のストロークとマッチするパターを選ぶことが非常に重要です。そして、その「自分に合ったパター」を見極めるための重要なポイントが、ネック形状から見える特性の理解なのです。

小倉勇人(おぐら・はやと) プロフィール
ゴルフショップ「ゴルフフィールズ ユニオン」店長。クラフトマン、クラブフィッター、さらに雑誌やウェブ記事の編集・執筆業も行う、歌って踊れるゴルフライター。好きなクラブはパター、左利き/右打ち。愛称は「オグさん」。