いったい、なぜ? “目隠しテスト”からそれは始まった/ウェッジフィッティング最前線レポート

米カリフォルニア州カールスバッドにあるタイトリストのクラブ開発拠点「LOKER(ローカー)」から約10マイル(約16キロ)離れた場所に、タイトリスト・パフォーマンス・インスティチュート(TPI)がある。PGAツアー選手がオフシーズンにクラブテストやフィッティングをしたり、一般ゴルファーもツアーレベルのフィッティングを受けたりできることで知られている。
TPIが本格始動したのは2003年から。符合するように2004年にはウェッジの使用率がPGAツアーで1位になり、アイアンは過去20年のうち19年、1位を獲得、10年連続で1位を継続中で、ドライバーは2019年から6年連続で1位になっている。TPIでのフィッティングがクラブ使用率に大きく貢献したのではないだろうか(と勝手に睨んでいる)。そんな、タイトリストのフィッティングの総本山に取材班が乗り込んだ。
総本山でいざクラブフィッティング実践へ

33エーカー(東京ドーム約3個分)の広大な敷地には、テスト用コース、アプローチエリア、バンカー、そして整備の行き届いたグリーンがある。クラブテストはもちろん、2003年からはタイトリストが一人ひとりの身体的特徴に合ったゴルフスイングやクラブの研究をはじめるTPIプログラムの拠点となっている。
前日にタイトリストのマスタークラフトマンで、ウェッジ界のレジェンドといわれるボブ・ボーケイさんによる“特別講座”でたっぷりとウェッジの知識は植え付けられた。その際、ボーケイさんが強調していたのが、「ウェッジフィッティング」の重要性だった。
この日はいざ実践。トップレベルのフィッティングの場で「フィッティングプログラム」を受けることになった。担当してくれたのはツアープロのフィッティングも担当するジョーイさん。簡単な問診を終え、さっそくアプローチを行う“チッピングエリア”へ。記者のハンディキャップは18。グリーン周りのアプローチは、普段52度と56度の2本で対応している。アイアンのフィッティングでは「タイトリスト T200」を推奨された。
ブラインドテストからスタート

ジョーイさんは30本近くのSM10が入ったキャディバッグを用意すると、おもむろにタオルをかぶせ、ソールを見せないよう隠した。「まずはブラインドテストから始めます。バウンスが何度なのか、どういうグラインドなのかを把握しない状態で打って、そのフィーリングを教えてください。まずは先入観なしでアプローチしてほしい。アイアンは『T200』でしたから、ロフトピッチを考えて、ウェッジは52、56、60度が良いと思います」
バウンスやグラインドが見えないように渡されたのは60度のウェッジ。アプローチエリアは花道の平らなライで、狙いは約50ヤード先にある、受けたグリーンのやや奥のピン位置だった。

アメリカのペタペタな洋芝で打つ緊張感のもと、1本目のウェッジはダフってショートのミスを連発した。続けて渡された2本目(もちろんこれもブラインド)は1発目からクリーンに打てて、ジョーイさんからも「Really Good!」の声が。そして3本目、こちらはリーディングエッジが引っかかりやすく、右に出るミスが多く出た。最後に渡された4本目はスピンが入ってキャリーでピンの根元まで突っ込むような安定したアプローチを打つことができた。
4本目を打ち終えると、ジョーイさんから良かった順番を聞かれ、素直に「2→4→3→1」と答えた。2本目と4本目はアメリカの芝でも打ちやすく、普段日本だと60度を打つことはないが、意外と打てたのが好印象だった。さあさあ、4本のグラインドはそれぞれ何だったのか?
「まだ教えませんよ。確かに2本目のグラインドはインパクトの音も良かったし、スピンも入っていましたね。でも、気になったのはウェッジの後ろ側、トレーリングエッジを上手く使えてないこと。ウェッジはトレーリングエッジを最初に地面に当てるクラブです」

「トレーリングエッジを使うのを怖がるな」-。これはボーケイさんに口が酸っぱくなるほどアドバイスされた言葉。耳にこびりついていたワードが、ここでも出てくるとは。日本ではどちらかといえばリーディングエッジの入れ方をテーマにしたレッスンや解説が多いが…。
その後ジョーイさんに言われたとおりにトレーリングエッジを意識して打ってみると、たしかに芯に当てやすくなって方向性も安定した。スピンが効いて、ピンをデッドに攻めてもボールを止められる。結局そのままグラインドの答えは教えてもらえず、バンカーへと移動した。
バンカーは距離のある状況でテスト

バンカーでもブラインドテストは継続。まずは56度のウェッジを渡された。ピンまで40ヤードとちょっと距離があり、難しいバンカーショットだ。
1本目はいきなりナイスショット。砂イチほどの距離に寄った。その後も悪くないショットを連発した。2本目は厚く入りすぎてショート。3本目は1球だけシャンクが出たが、それ以外はグリーンに乗ったし、フィーリングも悪くない。良かった順番は「1→3→2」だと答えた。
「OK! あなたはラウンドソールと相性が良いですね。60度で芝から打った2本目も、バンカーから打った56度の1本目もSグラインド。アプローチの軌道としてはきれいに拾うタイプなので、オーソドックスなラウンドソールが一番合っています」とジョーイさんはようやく種明かし。私に合うソールは「S」という結果が出た。トレーリングエッジをトウからヒールにかけてストレートにグラインドしたモデルだった。
たしかに先入観なくアプローチをしたので、グラインドの違いがはっきり結果に表れた。もし、「次はワイドソールのKグラインドです」と言われて打っていたら、打ち方も変わったかもしれない。
フィッティングは終盤へ ウェッジ選びの最終結果はいかに

最後にジョーイさんから、一つの提案があった。「バンカーはいつも56度で打っているということでしたが、60度を試してみませんか?」とすすめられた。60度でのバンカーショットは何となく難しそうな印象があったが、実際に使ってみると、意外に簡単で驚いたほど。56度ではフェースを開いて打つ距離も、60度なら普通のアプローチに近い感覚でトレーリングエッジをぶつけるように打つだけで、フワッとしたバンカーショットが打てたのだ。
「素晴らしいショットです。もっと強く打ち込んでもいい。60度だったらフルスイングしてもオーバーしないし、バンカーからでもスピンが効く。もっと打ち込んでください」
バンカーを終えて、ようやくウェッジフィッティングの最終結果が決まった。52度Fグラインド、56度Sグラインド、60度Sグラインドの3本セットだ。56度と60度の「S」は様々なショットに対応する細めのフルソール。そして普段私が日本で入れていない60度の投入をすすめられた。これだけ用途が増えるならば、入れたほうがスコアは縮まりそうな予感がした。

クラブフィッティングは今まで経験もあったが、今回のような「ウェッジフィッティング」は初めて。ブラインドテストをすることで、よりソールと地面との接触に集中してアプローチすることができたのは言うまでもない。そして正しいグラインド、自分に合ったソールを選ぶことがいかに重要かも身に染みた二日間だった。そうでないと、ボーケイさんやジョーイさんがしきりに言う「トレーリングエッジ」も使えないだろうから。