トランプ関税「25%」ゴルフ界への影響は? クラブの値段は上がる? 国内外ブランドの動向予想
ドナルド・トランプ米大統領は7日、日本からのすべての輸入品に対し、8月1日から25%の相互関税を新たに課すとする石破茂首相宛ての書簡を公表した。重大な局面を迎えた交渉の行方は依然として流動的だが、発動されればゴルフ業界にも大きな影響を及ぼすのは必至だ。クラブの値段は上がるのか? クラブメーカーへの影響は? 今後の市場動向も含めて、経済の専門家に話を聞いた。
大台10万円突入の「外ブラ」 何とか踏みとどまる「国産」
現在、新商品のクラブの定価は、実勢価格ともに平均10~15%上昇。ことし発売のテーラーメイド「Qi35 ドライバー」は税込9万9000円で、昨年「Qi10 ドライバー」から3300円も上がっている(9万5700円)。同時期発売キャロウェイ「ELYTE ドライバー」も同じく「パラダイム Ai スモーク MAX ドライバー」から1万1000円上昇で10万7800円。ピン「G440 MAX ドライバー」も、約2年前にはなるが前作「G430 MAX ドライバー」から1万1000円の値上げと大きく上昇している。
全体的に海外ブランドに比べると、国産ブランドは踏ん張っている状況が分かる。昨年発売のモデルだがダンロップ「スリクソン ZXi ドライバー」も、ブリヂストンの2023年モデル「B1ST ドライバー」も8万円台をキープ。ミズノ「ST-X 230 ドライバー」とプロギア「RS ドライバー」は9万円台前半。今後リリースされる最新作、ブリヂストン「BX」シリーズも定価10万円を超えないという情報が入ってきている。
「国産」も価格上昇は避けられない!? 自動車産業打撃の余波
「現時点で10%だった関税が25%まで引き上げられれば、どの分野でも価格高騰の可能性は否定できません」と言うのは、経済アナリストの森永康平(もりなが・こうへい)氏。まずは具体的なクラブの値段だけでなく、ゴルフ業界と接点の多い自動車産業の動向に注目する。
「国内自動車メーカーは、関税の影響を少しでも小さくするため、車の輸出価格を下げるなどの工夫をしています。関税でかかるコスト分をカバーするために、最初から価格を安く設定して売るケースを模索してきています。ですが、このまま予想以上に関税が上がれば、そのような工夫でも対応しきれないことが予想されます」
国内のクラブメーカー「ダンロップ」「ブリヂストン」「プロギア」はタイヤメーカーの傘下。ほとんどが自動車産業だ。森永氏は「車が売れなければ、当然タイヤをはじめとする部品の売れ行きも落ち込み、悪循環に陥ります」と指摘する。「部品価格が上がれば車両価格も上昇しますが、関税の影響で価格転嫁が難しいままだと、販売はさらに低迷しかねません。タイヤメーカーを母体に持つ会社は、ゴルフ事業に大きな影響が及ぶのは避けられないでしょう」
「また関税の引き上げだけではなく、燃料価格高騰や円安、人手不足による人件費増加によって、企業はコストが増えて値上げを余儀なくしている状況です。大企業従業員の一部は賃上げの恩恵を受けていますが、全体的には賃上げが物価上昇の速度に追い付かず実質的な給料が増えていない層が多く、消費の冷え込みも懸念されています。今後、年末にかけて資本力のある企業は、値下げやバーゲンで顧客を引き寄せられますが、中小企業は対応できずに企業間の格差は広がる一方です」
ここまで粘り強く値上げを抑えてきた国内メーカーだが、関税のあおりと様々な要因が重なれば、現状維持は非常に困難と思えてくる。
「外ブラ」サプライチェーンの複雑さが火種に!? 景気への不安から買い控えも
では、海外ブランドの状況はどうなのだろう?
米国のゴルフ市場に詳しい元ボール開発の第一人者・ロック石井氏に聞くと、「4月に関税ショックで株価が大きな影響を受けました。そこから約2カ月で元の水準まで持ち直しましたが、8月1日からの関税適用は発表を受け再び乱高下を見せています。ゴルフ業界の多くの経営者は、コロナ後のゴルフ好景気が過ぎ去って先行きの不安を抱えていたでしょうから、更なる悩みを抱える状況に陥っているのではないでしょうか」と切り出した。
クラブの各パーツは国際的に分散して生産されているのが現状だ。「ヘッドをはじめとしたパーツやそれらを組み立てた完成品は中国、ベトナム、タイなどアジアからの輸入が主流ではありますが、日本国内で生産した部品や完成品を輸出しているメーカーも多々あります。アジアの製造拠点が米国から原材料を輸入し、完成品を米国に輸出するといったケースもあり、サプライチェーン(原材料調達から消費者に渡るまでのプロセス)はかなり複雑になっています。関税が掛かれば、最終的な売価への影響も避けられないでしょう」
石井氏は米国内の市場においても警鐘を鳴らす。「株価は関税ショック前の水準に戻したとはいえ、景気の先行きへの不安は募っているのは間違いないでしょう。中間層から低所得者層を中心に“買い控え”の可能性は高く、低額とはいえないゴルフ用品にも影響が及ぶと思われます」
「ボールやグローブなど消耗品はある程度流れるでしょうが、クラブなどの高額商品に対しては各メーカーとも慎重な生産計画となり、原材料購入にも調整が入ることでしょう。コロナ禍直後に上がった消費もピークを過ぎ、昨年は売れ行きが鈍化したと聞きます。そんな状況でのトランプ関税ですから、生産量の落ち込みに加え、パーツ納入先から単価見直しの依頼、完成品であれば価格改訂の検討、さらには生産拠点をはじめとした中長期的見直しに着手といった課題に直面するのではないでしょうか」
国内のみならず、米国でも課題は山積みのようだ。ゴルフ愛好家として知られるトランプ大統領だが、今回の政策は業界に一層の冷え込みを招きかねない。今後の動向を、引き続き注意深く見守る必要がある。(編集部・内田佳)