硬派or軟派?気になる女子プロの“シューズ選び” その勘ドコロ
スイングの足元を支えるゴルフシューズ。我々アマチュアは、つい履きやすさや歩きやすさを優先して選んでしまいがちだが、ツアーで戦う女子プロたちのシューズ選びには、アマチュアには想像できない細やかさがあった!
「エアマックス」はグリーンの傾斜を感じやすい!?
まず話を聞いたのは、今シーズン絶好調の河本結(メルセデスランキング6位)。彼女が履くのは、軽さと軟らかさがウリの「エアマックス 90G」(ナイキ)。歩きやすさやスイング時の安定はもちろんだが、何より重視するのは“グリーン上”だった。
「理由が2つあります。まずは日常でもエアマックスのスニーカーを履いていること。普段履きとゴルフ場でシューズを揃えることで、ゴルフをする時だけの違和感みたいなものを払しょくしています。次に、地面の傾斜がわかりやすいこと。『エアマックス 90G』はスパイクレスなので、私が取り入れているエイムポイントがやりやすいんです」
ご存知のように「エイムポイント」とは足裏でグリーンの勾配を感じて数値化する、パッティング時のグリーンリーディングの方法。これには傾斜を感じやすいシューズが適しているようだ。
一方で、昨年3勝を挙げてメルセデスランキング6位に入った桑木志帆は、河本と同じナイキのシューズ「ビクトリー ツアー」を履く。グリップ力を最重要視しているそうだ。
「私はしっかり目のモデルを選んでいます。スパイク鋲(びょう)が付いていて、ベタ足スイングの私がしっかり踏み込めるのが好みです。スパイクレスだと切り返しで滑っちゃうんですよね」
河本とは違って、どちらかというとスイング時の安定感を考慮したシューズ選び。いかにもショットメーカーの桑木らしい。
彼女たちの意見を踏まえ、ナイキのツアー担当、武居大輔氏に女子プロのシューズ事情を聞いてみることに。
「女子プロに限って言えば、しっかり目を選ぶ選手は少ないですね。半数以上は、楽に歩けるスポーツシューズタイプが人気です」とその傾向を解説。「ナイキのゴルフシューズにはスニーカータイプとゴルフシューズ然としたしっかりしたモデルがあって、その間にナイキっぽい先進的なモデルがラインアップされています。楽に歩きたいなら河本プロのような『エアマックス』、鋲があってしっかりグリップできるものがいいとなればマキロイやシェフラー、桑木プロが履いているカチっとした『ビクトリー』です。その間にランニングシューズ由来の『フリー』などがあります」
アイアンで例えれば「ビクトリー」はマッスルバックやプロキャビ系、「エアマックス」は流行の飛びキャビ系といったところか。足元を見るだけでも、選手らがプレー中に何を重視するかがうかがい知れる。
歩きやすさを重視する女子プロが多い
選手たちに話を聞いていると、フットジョイの担当者が新製品のフィッティングを行っている場に出くわした。ぺ・ソンウが椅子に座って、シューズを試着している。いったいどんなやり取りをしているのか。FJシューフィッター吉岡哲平氏に話を聞いてみた。
「ペ・ソンウ選手はしっかりしたモデルでスイングしたいタイプ。彼女のように韓国人選手はけっこうカッチリしたモデルを好む傾向にあります」と、彼女には「ハイパーフレックス BOA ウィメンズ」をすすめた。と言っても女子プロは男子プロほどの硬さは求めていないようで、「女子プロは歩きやすさにフォーカスする選手が多いですね。歩きやすいという理由でやわらかいモデルを好む選手数は男子より圧倒的多数です。硬さのストライクゾーンは男子より広い感じがします」と吉岡氏。「ちなみに男子には、踏み込んだ時のブレを気にする選手が多いです」
「モデルを固定せず、使い分ける選手もいます。飛ばし屋の渡邉彩香プロは、基本どっしりしたシューズを履いていますが、疲れを感じる日は軟らかめのモデルを履いています。菊地絵理香プロも同じく複数のシューズを履き分けているそうです」と女子プロのシューズ事情を話す吉岡氏。「アマチュアの方も、種類の異なるシューズを使い分けたほうがいいと思います。アップダウンの多いコースでプレーするならしっかりグリップするもの。歩きのラウンドだったら歩きやすいものを履くなど使い分けると、スイングの安定感やプレーの疲労度が間違いなく変わると思います」
なるほど。ショートウッドかUTかを迷うように、ゴルフシューズもコースによって使い分けるのはアリなのか。
「ボールまでの距離」が気になるって何?
鶴岡果恋は、歩きやすさよりもしっかり感を求めて「PRO/SLX」を長く履く。
「硬めのシューズが好きですね。というか、スニーカーみたいなやわらかいゴルフシューズは履いたことがないです。硬さがないとスイングが不安定になっちゃう気がしますし、どっしり構えたいのである程度の重さも欲しいです。このシューズはほどよい高さがあり、ボールまでの距離がちょうどいいのも気に入っているポイントです!」
ボールまでの距離!?プロはそこまで考えているのか…。
「プロがシューズに求める条件はアマチュアとは比べ物にならないくらい厳しいものがありますね。鶴岡プロのように、シューズの高さを指摘する声はありますよ」とは吉岡氏。「最近はミッドソールが厚いシューズが多く、アドレス時にクラブとボールの位置(高さ)がいつもと変わることが気になる選手もいます。その違和感に慣れてでもシューズを変更するケースもあり、前出の渡邉、菊地両プロは新しいシューズを2カ月間くらい慣らし履きしてから試合で履くこともあるそうです」
まさに1cmにも満たない世界の話だが、シューズに対するプロたちの細かすぎる感覚には驚きの連続。ゴルフシューズの奥深い世界、恐るべし。(編集部・中島俊介)