「ローフェードの切り札を武器に」マスターたちのスイング解析/ロリー・マキロイ【解説:目澤秀憲】
マスターたちによる祭典がいよいよ始まる。オーガスタを攻略してグリーンジャケットに袖を通すのは誰か。「マスターズ」優勝をサポートした経験を持つ目澤秀憲コーチが、優勝候補たちの最新スイングを分析・解説する。1回目は、北アイルランドのロリー・マキロイ。
トップでのクロスする度合いが減った
優勝候補の筆頭はやはりロリー・マキロイでしょう。ことしは「AT&Tペブルビーチプロアマ」、準メジャーの「ザ・プレーヤーズ選手権」で優勝していますが、単に好調だからということだけではなくて、それにきちんと「裏付け」があるというのが、優勝候補に挙げる理由です。
昨年は、マキロイにとって考えさせられることが多かった年じゃないかと思っています。「全米オープン」で、ブライソン・デシャンボーに1打差で負けたこともそうですし、その後、「アイルランドオープン」でも競り負け(優勝はラスムス・ホイゴー/デンマーク)、「BMW選手権」ではビリー・ホーシェルにプレーオフで敗れました。それがよほど堪えたのか、そこから「3週間インドアにこもって自分のスイングと向き合った」と、本人がコメントしています。ツアーに復帰してすぐ、DPワールドツアーの最終戦「DPワールド ツアー選手権 ドバイ」で優勝していますから、その効果は絶大だったと言えるでしょう。
具体的に何をやったのかというと、トップでクラブがクロスする(ターゲットと平行なラインより右を向く)度合いを減らして、むしろ少しレイドオフ(ターゲットと平行なラインより左を向く状態)になるように変更しています。そのために右手首の曲げ角(手の甲方向と親指方向)を強くし、右肩の外旋(ひじを90度に曲げ、肩からひじを水平にした状態で手を背中側に倒す動き)を増やしています。
結果として何ができるようになったかというと、勝負どころで「ローフェード」が打てるようになった。これがマキロイの新しい強力な武器になっています。マキロイと言えば「ハイドロー」ですが、どうしてもフェアウェイに置いておかなくちゃいけないときに、この球ではうまくいかないことが多かった印象があります。
手札にローフェードが加わったことで、たとえば右ドックレッグの攻略が楽になって、「新しい勝ち方」ができるようになったわけです。ドライバーだけでなく、アイアンも打ち出し角が少し低くなって、とくにショートアイアンがピンに絡む確率が上がりました。ボールを「TP5X」から「TP5」に替えたのも、新しいスイングとの相性を考えてのことだと思います。
とにかく、昨年の後半からはスイングに対する向き合い方がシビアで、すべてはことし「マスターズ」で勝つため、という気概を感じます。
練習では、これまであまり使っていなかった器具を使っていたり、コースだけじゃなくて、たとえばホテルでもグリップ矯正のための器具を装着して、グリップのチェックをしていると聞きます。コース以外の部分で自分と向き合う時間を増やして、コースでは「ゴルフをする」ことに専念するというのは、若い選手にも真似をしてほしい姿勢です。結局、コースにいる時間だけで全部を完結させるのは不可能ですから。(取材・構成/服部謙二郎)