FWバンカーからの特打ちで復活優勝「目的は最下点の安定」スイングセルフ解説/櫻井心那
黄金世代、プラチナ世代、ミレニアム世代、ダイヤモンド世代…。世代の呼び名も増え、毎年のように新星が現れる女子ツアー界。彼女たちはどんな経歴を持ち、どんなスイングをしているのか。「U-25世代」の若手にスポットをあて、自分の打ち方をセルフ解説してもらった。
4勝を挙げるもスランプに陥った1年間…
今回ピックアップするのは、ダイヤモンド世代を代表する櫻井心那(さくらいここな)。長崎県出身の21歳。長崎日大高校ゴルフ部で経験を積み、21年プロテストに一発合格。プロ入り後は、下部ツアー「ECCレディス」ですぐに初優勝。同ツアーで年間5勝を挙げ賞金女王に輝いた。その勢いで挑んだ23年レギュラツアーでは、7月「資生堂レディス」優勝を皮切りに年間4勝。その翌年はなんとかシードは保ったが、スランプに陥り苦労の一年に。そして、ことし8月の「CAT Ladies」で見事復活優勝を遂げた。
経歴だけを見ると、まだ21歳とは思えないほどたくさんの経験をしてきた彼女。ここ1、2年のスイング改造は並々ならぬ努力をしてきたと言うが、いったいどんなことをやってきたのか?その詳細、本人の口から語ってもらった。
まずは最新のスイングをご覧アレ
――昨年スランプに陥った時のことを振り返ってもらっていいですか。
元々ずっとフェードが自分の持ち球で戦ってきましたが、昨年序盤からそのフェードでの“右ペラ”が止まらなくて…。フェアウェイからグリーンにも乗らないぐらいな状況だったんです。6月全米女子オープンのあと帰国してから、ドローに変える決断をしました。
――ドローにすることで良くなるという判断だった?
どちらかというと応急処置ですね。そうするしかなかったというか、球がつかまらないからとりあえず(球を)つかまえたくてドローを選択しました。そこから4カ月間はドローを打っていました。
――ドローにして状況は改善しましたか?
スイングが良くなったかというと、そうではないです。でもドローを打っていなかったらシードは取れなかったと思います(24年メルセデスランク28位)。必死にドローを打って、頑張っていました。
――誰かコーチに習っていたんですか?
学生時代から習っていた前のコーチと終わってからは、男子プロの方にアドバイスもらったりしていました。でもなかなかしっくりはいかなくて、他のコーチを探していました。その中で、たまたま兄のバイト先の関係で目澤さん(現コーチ・目澤秀憲氏)とつながりができて。スタンレー(スタンレーレディス)で予選落ちしたあとに一度見てもらったんです。最初は「軽く見てもらう」ぐらいの気持ちでしたが、そこから正式に見てもらうことになって。翌週の「富士通レディス」からもうフェードを打っていました(笑)。
――やっぱりフェードにしたかった?
それもありますが、ドローでも右ペラが出るようになっていたし、「なんかしなきゃ」という気持ちのほうが大きかったです。このまま何もやんなくてもダメだし。もう9月の時点でシードは決まっていたので、来シーズンに向けて早く始めたほうがいいとも思っていました。
――目澤コーチとの具体的なやり取りは?
フェードの打ち方を初めてちゃんと習いました。今でも覚えていますけど、習いたてのころは頭がパンクするぐらい覚えることがいっぱいで。携帯のメモにバーッと気づいたことを書いていましたが、メモがパンパンに。
――メモにはどんなことを書いていましたか?
「右に残ってクラブが寝てこないように」とか「ヘッドが前にあるイメージで下ろすと前傾を保ちやすい」など、その時取り組んでいたことですね。それを自分で考えたのか、目澤さんから言われたのかもう覚えてないですけど。
――いわゆるドローのときの悪い癖が出ないような感じですか?
そうですね。重点的に取り組んだのは、「左に乗る」ことでした。右に残ってクラブが寝てヘッドが下から入りやすかったので、ダウンスイングでクラブが地面と平行の時点でヘッドが高い位置にあるイメージでした。ドロー時の癖で右サイドが縮んで、右に倒れやすくて手が前に出る感じがあったので。
――一年前のスイング動画と比べると見た目でも明らかに変わりましたよね。
(昨年の日本女子プロゴルフ選手権のスイング動画を本人が見ながら)え、これ一年前ですか?ヤバいヤバい、ガチヤバい(笑)。バックスイングで右ワキめちゃくちゃ空いているし。ダウンスイングからインパクトにかけてもヤバすぎじゃないですか?インパクトめちゃ詰まっているじゃないですか。これで選手権6位って…ヤバ(24年の日本女子プロゴルフ選手権は6位)。
――…。動画を見比べて一番変わったところは?
テークバックで右わきが空いていたのが、締まるようになりました。右わきが空かなければ上手くクラブと体が同調して打てるし、スイング軌道も安定します。あとは先ほど言ったように、左にも乗れています。習いたての頃は、ずっと左に乗っているような意識でやっていましたからね。今でこそようやく、左に乗る意識は無くなって自然に乗れています。
*下の動画はことしのオフ時のスイング
――ここまで変えるって、やはりスイング改造はきつかった?
そうですね。頭の中、めっちゃパンクしていました。でも、毎週新しいことにチャレンジできて、ゴルフも上手くなっていたので、「なんか楽しーっ!」てなっていました。そんなやり取りが10月からオフまで続きました。
――オフの間はどんな練習をしましたか?
合宿の時は「フェアウェイバンカーから打つと今の課題がクリアできるから」(目澤コーチ)と言われて、ずっとバンカーから打っていました。しかも左足下がりでアゴも高い難しいライから。
――どんな狙いがあるんですか?
最下点の管理です。ヘッドが下から入るとまともに打てませんからね。「これを打てるようになったらやりたいことができるようになるよ」と目澤さんに言われ。「最下点が安定しなかったら、自分の出力も出せないし、スピンもかけられないし、高さもコントロールできない」って。理屈は分かるんですけど、この練習、マジで嫌でした(笑)。だって、みんな(同門の永峰咲希や金子駆大ら)普通にレンジの打席から打っているんですよ。なんで私だけ砂なの?って。早く陸(打席)に行きたいってずっと思いながら打っていました。
――(笑)。でもその練習が今、効果となって表れているということですね。
そうですね。今はあまり課題を考えずに打てるようになってきました。フォローのポジションで、後ろから見てフェースが下を向いていたんですが、今はスクエアに。それも最初は考えないとできなかったんですが、今は自然とできています。あとはどうやって精度を上げるかの段階になってきています。
――復活優勝の前に気づきがあったと聞きました。
明治(北海道meijiカップ)前のオープンウィークで目澤さんからアドバイスもらっていたんですが、その時はもう頭がこんがらがって、全然当たらなくなっちゃって。軽井沢(NEC軽井沢)初日の14番まで全然ダメで、15番ぐらいからその週にもらったヒントも加えたら、それがハマって。いいフェードが打てるようになったんです。2日目も良くて、軽井沢は結局予選落ちしましたけど、フィーリングがめちゃくちゃ良くなったんです。「これを続けていればスコアが出るよ」って目澤さんにも言われ。
――そのヒントとは?
左手のローテーションを増やした感じです。右手はそのままでも左手は開けるからって教わって、それでピンときました。(課題をやり過ぎたことで)クラブがアウトに上がりやすく、フェースもシャットになりやすかった。それを、フェースを開きながらクラブをストレートからインサイド気味に上げるイメージに変えました。アドレスでも左にい過ぎないようにして、ボールを右から見るようにしています。
――それが翌週の優勝につながったと。
そうですね。でも実際やっていることは、一年前とほとんど変わっていないんですよ。取り組んできたことが過度になっていたのを今回修正できて、それがハマった感じです。
――昨年10月からスイングを改造してきた中で、いま何パーセントぐらいのところまで来ていますか?
上が分からないから何とも言えないですが、でも、今できるゴルフはやれていると思います。正直、やってもやんなくても一緒じゃないですか。それなら私はやるほうを選択する。常に何か自分が先に進んでいる感じがないと嫌で、止まっていたくないんです。シード取ってそこで安泰じゃなくて、やっぱりゴルフやっているからには勝たないとだし、強くならないといけないと思っています。
――復活優勝は自分の思っていたタイミングでしたか?
(そこまで練習して)逆に勝てないのがおかしいなぐらいの感覚でした。「なんで他の人たちに負けるんだろう」と考えながらやっていました。
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普段はおっとりとした雰囲気だが、コメントを聞くとなかなかどうして負けん気が強い彼女。その一面は、目澤コーチとタッグを組むときにも出ていた。「いつも新しい選手と契約するときに目標を決めてもらうんですが、彼女はためらうことなく『世界一になりたいです』って言ってきたんです。『全米女子オープンで優勝したいです』って。目標をそこまで高く言える選手ってなかなか少ない。でもそれを言い切ったので、僕もそれだったら手助けしたいなって。けっこう大変なことだよって言ったんですけど『それでもやりたい』と彼女の目は本気でした。そこに時間も労力もかけられる選手ってやっぱり強くなりますよね」(目澤コーチ)
この先、櫻井はどこまで飛躍していくのか。まだまだ伸びしろたっぷりな彼女。その成長が楽しみだ。(取材・構成/服部謙二郎)